「あの……脱ぎましたけど、その…」視線が揺れ、あちこちに散乱する。「恥ずかしいです、これ……」一糸纏わぬ姿は、絹のように艶やかに、柔らかに光り、アンドロイド特有の薄い分割線が、これまた蠱惑的に、その身に走っている。「塗っていくぞ」とぷん、と筆が塗料に浸され、とろんとした塗料の付いた筆が、こちらに近づく。あと少し…ぴとっ。「ひゃうっ!?」身を、ぴくんと跳ね、小さな悲鳴が口を突く。「…っ…うう…」
衣服の無い分、意識が筆先に集中してしまうのだろう。普段よりよっぽど、機体表面の感度が高い気がする。だが、筆先が触れるのは序の口であった。そーっ、と筆が下ろされる。背中を疾る、電光のような感覚。「ひぐっ!?う……あぁ…」声を、抑えずにはいられないのも当然と言える。「上半身、下塗りでまず全体的に塗ってから陰影足してくよ~」彼の声が耳に届くより先に、体に疾る感覚が制御部に届く。終わるまで、耐えられる…?
そーっ、と、筆が上半身を通り、背中を、そして腕にと通っていく。この感覚にも慣れて来た頃。「腕を上げてー」「???」とりあえず、言われた通りにする。そして。「……!!!」声が出ない。が、体はしっかり反応した。腕の下、脇を通った筆。感覚の過敏になっている状態で、過敏な脇は…、耐えようもない。抑えた声を、吐息に吐き出し、歯を噛み締める。ぎゅっと目を閉じ、過剰な感覚のフィードバックを必死に抑えようとする。
塗り終わり、脇から筆が離れる。ほっと胸を撫で下ろしたその時、反対の脇に電流が走る。そうだ。脇は一つではないのだ。なまじ、安心していただけに…「ふぁ……んっ!」声を、抑える事など出来なかった。無理矢理、歯軋りして耐えようとするが、歯の隙間から漏れる吐息は、身の状態を明確に物語り、甘く揺れている。筆を取っている彼の方を見れば、どうにも読めない表情で筆に塗料を足し、再び、筆先を滑るように撫でていくのみ。
脇に、塗料がおおかた塗られたのを確認したら、今度は体の前面のようだ。とりあえず、脇の下を塗り終わったので腕は下ろして良いらしい。とはいえ塗料が乾くまでは、体と腕をくっつけてはいけない。というわけで、少し腕を浮かせた体制になる。(3Dモデルのデフォルトポーズ…)そんな単語が頭を走り、少し笑いそうになる。「ふふっ…ひゃんっ!?!?」笑っている場合ではなかった。塗装が再開され、体の前面に筆が走り始める。
笑った直後に悲鳴を上げたせいで、少し息苦しい。過呼吸気味な息を、少しでも整えようとする。ただ、筆は容赦なく皮膚を伝っていく。つーっ、と、マシュマロのような膨らみを伝って降りた筆が、小さく飛び出た芽を撫でた。ここにきて、息を整える努力は無駄になった。ビクン!!と、一際強く体が反応する。「………んあっ…」崩れそうな足に力を入れ、辛うじて踏みとどまりながら、彼に乞う。「あの…座らせてください……」
彼はというと、「ふむ…そう言うなら」と、座らせてくれた。ただ、胸の塗装が終わった訳では無い。「…ん…はぁ、はっ…か、あっ……ん…」声を抑える努力など、とうの昔に放棄し、ただひたすら、それを享受する身と化す。もはや、脇など目でもなく、ただただ、終わることを待つのみ。筆の走りが、わざとらしくすら思えてくるくらいで。少し、ボディペイントを後悔しながら、その目をぎゅっと閉じ、震える足を抑えるくらいで。
半分、体に力が入らなくすらなる頃、ようやく胸は終わった。次は腹部だ。胸ほど、過敏な部分でもなく、先程よりは平和に進んでいく。ただ、へそを筆が撫でた時だけは、「ひゃうっ!」と、小さく甘い声が漏れてしまったが。「上半身の下塗りは終わりだ」その声に、やっと…と、息を撫で下ろす。「次は、下半身だな」胸を撫で下ろしたのも、ほんの一瞬であった。上半身の下塗りに使った白の塗料を片付け、奥から濃紺が出てくる。
先ほど同様、まずは後ろから。臀部を、筆が伝っていく。先ほどより太めの筆で、広範囲を一気に塗ってしまう気のようだ。そのまま、足の横を伝い、前部に。ここまでは良かったが、ここから先こそ、懸念していた部分だ。「足を開いて~」もはや、どうしたら良いか分からない。先は容易に想像出来るが。ただ、ここまで来て…というのもある。おそるおそる、本当にそーっと……彼女は、足を開いた
そっと開かれる足。最早、覚悟を決めるしか無い。近づく筆。あと少しという所で、歯を食いしばり、目をぎゅっと閉じる。だが、予想していた感覚は来ない。「…?」少し力を弛めて、目をそっと開けた瞬間。「にゃあぁんっっ!?」筆の先端が、そこをくすぐった。全身が弾かれたように反応する。焦らすが如く、筆は撫で下ろされて行く。「…っ、あ、あ、あぁ………」体に力が入らず、びくん、と痙攣気味になる。溶けてしまいそう。
思考が剥ぎ取られ、全て感覚に置き換わる寸前、覗き見するねずみさんを見つける。空になった瓶が、その傍に転がっていた。ここに来て、ようやく理解した。普段より感覚が過敏だった理由。ハメられた。何か仕込まれた…!(あとで、どぶねずみさんにお仕置き…しなければ…)そして、思考が消える。身を疾る感覚にのみ支配された身は、がくがくと震える。「ふぅ…はぁ、んぁ、……か、やっ、はぅんっ…!」体は、言う事を聞かない。
座る状態すら維持出来ず、仰向けに倒れ込む。身体への過剰負荷に、冷却液が緊急放出され……ブラックアウト。体操着のペイントを施され、スリープモードになったのらきゃっとの目を伝った液。それと同時に、ペイント中だった部位からも冷却液が広がる。肝心のペイント事態は、皮肉にもクオリティの高いものであった。…後日。屋根裏に、のらきゃっとが潜り込んで来た。喜ぶねずみの中、心当たりのあるねずみが、ガタガタ震える。
その後、どぶねずみ達がどうなったか。それは、語る必要も無いだろう……。~end~